外との接触を断とうとする長男
長男が暴れているので来てくださいと小学校から呼び出しがありました。そういうときは、父親であるぼくを呼んでもらうようにしてあるのです。到着すると、会議室の床の上に長男が顔を覆って伏せており、先生方がやり場ない様子で、長男の周りを囲んでおられました。いつものパターンです。
その時、彼は何も聞こうともしないし、何も言おうともしません。顔を覆う手を払おうとすると、大きくかぶりを振って、ひたすらに顔を覆うのです。彼は今、ただひたすらに外の世界との接触を断とうとしています。
しかしこのままにしておくわけにはなりません。次のステップに進むためには、なんとしても外とつながってもらわねばなりません。
「なんでお前はこうなんだ!」と言いたい気持ちを呑み込んで、時間をかけて、まず床に臥せっているのを座らせて、深呼吸をさせて、それから怒りの理由を聞き出すのです。
外との接触を断ち、心を閉ざす長男にぼくはいつも言うのです。
「いいか、君は今とてもつらいはずだ。怒りの気持ち、失敗して恥ずかしい気持ち、それらを今溜め込んでいる。それは余計つらいぞ。誰もオレのことをわかってくれないと思うだろう。でも君が自分の心を語らなければ、誰もどうしていいかわからない。だからなんでもいいから心に浮かぶことを話せ。誰もそれでバカになんかしない」
それでも語ることができるようになるには30分位かかるでしょうか。ようやくぽつりぽつりと心の断片を語りました。今回、音楽会の練習で先生に注意されたことがきっかけではありましたが、深いところでは、なかなか練習できず、うまくできない自分へのいらだちや悔しさがあったということがわかってきました。
その思いは受け止めておいて、まずは、暴れたことで先生やまわりの友達に迷惑をかけたことを反省しなければなりません。今日はそれだけでよいからと、暴れたことについての謝罪をさせて連れて帰りました。
心の澱を溜め込むことが爆発につながる
長男が暴れるのには必ず理由があるのです。何かに腹が立ったり、不満だったり、それは外から見れば稚拙な理由であることが大半ですが、彼にとって抑えがたい感情が行動となって物にあたったり、騒いだりするのです。
そこに至る前に、彼自身が気づいて自分の気持ちを観察できるようになれば、暴れる前に処理をすることができるでしょう。しかし、それは大人であっても難しいことです。
ぼくはそんなときに、彼の感情の澱を口に出してほしいと思うのです。自分が今何に苛ついているのか、どういう気持になっているのか、それを聞いてくれる人を見つけてほしいのです。その相手が必ずしも今の問題を解決してくれるわけではないかもしれない。けれども、それを吐き出すことできっと楽になることがあるはずなのです。
彼はそれをしない。すべての感情を溜め込もうとします。しかし心のバッファが小さいがゆえに、すぐにそれは暴発してしまいます。
その時まわりの友達が彼を嗤い、大人たちが責め立てると、彼はますます外との接触を断ち、孤独の海に沈んでいきます。ぼくは仕方ないので、後付でもどんな思いをしていたか聞き出すことで、彼の心を開かせようと試みるしかありません。
人を信頼できないのはなぜか
常日頃ぼくは「誰でもいいから信頼できる友達や、大人を作りなさい。何かもやもやしたらその人に相談しなさい」と長男に言います。
彼は「そんな人はいない。話しても無駄」といいます。
ぼくはそれがとても残念でなりません。彼は友達にも本当に恵まれているようにも思います。これだけ学校で問題を起こせば、仲間に入れてくれなくなりそうなものですが、サッカー部をやめた今でも「またサッカー部に帰ってこいよ」と言ってくれる友達がいます。担任の先生にしても、毎週仕事が終わると家庭訪問をして様子を報告してくださるし、ここしばらく日曜日に学校で音楽会の練習さえつきあってくれました。
誰もが彼に手を差し伸べているのに、それを拒否しているのが実にもったいないし、残念に思います。
人が人を信頼するときに、やはり自分の心を開いてさらけ出さなければなりません。それが彼には怖いのでしょう。心を開くことで、馬鹿にされるのかもしれない、裏切られるかもしれない、結局話しを聞いてもらえないかもしれない。
ぼくは、その恐怖を取り除いてくれる人を見つけてほしいのです。
教育センターに通う
中学校に向けての進路や、ソーシャルスキルトレーニングについて調べる中で、島根県教育センターの教育相談の存在を知りました。
ここではソーシャルスキルトレーニング自体は行っていませんが、学校生活や家庭生活で様々な悩みをかかえた子どもたちが来所して、担当の相談員に話を聞いてもらったり、遊んだりして過ごすことができるそうです。
最初に親だけで相談に行って、説明を受けたときに「ここでは子どもを評価しないし、否定もしません、また相談を受けた内容は親御さんであっても秘密にします」と言われました。相談員との人間関係を構築して悩みを受け入れるというのは、ぼくが言っている信頼できる大人を見つけることにつながるかもしれないと思いました。うまく相談員の先生との関係が築ければ、彼の心の負担が減るかもしれません。
次の週に、長男を連れて一回目の相談に行きました。男性の先生が担当となり、50分間遊んでもらったようです。親の方は相談室で、もうひとりの担当の先生に子どもの様子などについて話を聞いてもらいました。本人はとても楽しかったようで、また来たいということになったので、二週間に一度程度の頻度で通うことにしました。また親にとっても、日頃の子育ての辛さを聞いてもらえることで少し楽にもなりました。
その間、学校の授業を抜け出さねばならないのですが、今の彼には学校の授業よりも、人間関係の構築のほうが大切なのかなと思います。
それでも正解はない
親はなんとか彼が社会性を身につけて、自分の力で生きてほしいと願っています。彼がそうできるように親の立場から勉強し、いろいろな人と会って、どうすればいいか考えてきました。けれども、こうすればあなたのお子さんは自立できる、などという答えはだれも教えてくれません。
ぼくには長男の心の痛み、苦しさが手に取るようにわかるような気がします。それをどのように癒すか、自分なりには答えを見つけられます。でも、それはぼくの視点での答えであって、彼の答えではありません。正しく彼を導いてやることができない、それがとてももどかしいのです。
親にできることは、ただ愚直に全力で彼と向き合うことしかできないのかなと思っています。全力で向き合ってくれたことを、彼がわかってくれる日がくれば、それが自分自身への救いになるのでしょう。
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父親として向き合っている姿をみて、いつか気持ちが通じる日が来ることを祈っています。
コメントをありがとうございます。時間はかかるかもしれませんが、私の気持ちが長男に伝わったそのとき、彼が自分の発達障害を克服してくれるのだと思っています。