十歳の誕生日に贈る

君が生まれた時に、どれほどお父さんとお母さんは喜んだろう。
病気のせいで子どもを持つことを諦めていたところへ、君は生まれてきてくれたのであった。

それから十年が経った。
十年といえば、ひとつの節目に違いない。

泣くことしかできなかった君が、やがて言葉を覚え、今や自分の気持ちを語れるようになった。
ぼくは君と親子じゃなく、人間対人間として話せるようになったことを嬉しく思う。

だが成長した君の目には、この世の中はなんと矛盾に満ちた納得のいかないものに映っていることだろう。

社会のルールというものが、どんなに無駄で非効率なものか君は主張する。
無駄なルールに従う気はないと最初に言う自分が罰せられるのは何故かと君は問う。
ルールを守るふりをして守らない人がいるのに罰せられないのは何故かと君は問う。

君の言うとおりなのだ。この世は無駄で矛盾なものがいっぱいだ。

いろんな人がいて、いろんな考えがある。
それぞれが勝手気ままな行動をしたらどうだろう。
意見が違うからと相手を殴ってばかりでは、きっと一人きりになってしまう。
人間は一人では生きていけないんだ。隣にいる人と協力しないと生きていけないんだ。
そのために人は、話し合い、協力し合い、なんとか折り合いをつけて、社会をつくってきた。
それがルールなんだ。

たくさんの人が話し合って決めたルールは、一つの基準であることを、少なくとも認めなければならない。
それが如何に無駄で非効率であろうとも、君自身が決めたルールよりも重いものだということを認めなければならない。
もしそのルールがおかしいと思ったら、話し合って解決しよう。
感情のままに怒ったり、相手に暴力をふるったりしてはいけないのだ。

確かにルールを守らない人もいる。なおかつ罰せられない人もいる。
その判断があまりに曖昧なので、君は納得がいかないのだよな。曖昧な判断こそが君を混乱させる元凶なのだから。
しかしそうであっても君は自分の感情をコントロールする術を覚えなければならない。
ルールを破る人を罰することができるのは、そのルールを決めた人たちだということを、君は覚えなければいけない。
ああ、そんなつまらないことを覚えることは、君にとってどんなにか辛いことだろう。

そのことで今までずいぶん悔しい思いをしてきたよな。
今の君には納得し難いだろうが、でもこれらを生きるためのテクニックとして学んでいこう。そうしないと、これからの人生を君は苦しむことになってしまう。

次の十年で君は大人になる。
きっと、今まで以上の困難が君を待ち受けているだろう。生きることがつらいと思うこともあるだろう。
そういう時に、他人に助けを求めることができる人になってほしい。
助けを求めることは負けることじゃない。
それに、君が思うほど世の中は冷酷な人ばかりじゃないと思うぞ。
いつか君が本当に信頼し、愛することができる人に巡り合うことを祈る。
お父さんは、きっと生き永らえて、君を守る努力しよう。

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