第2クール第19日 抗がん剤治療を終えて

今回の抗がん剤治療について、受ける前までは非常に恐れていました。白血病になった十数年前に、抗がん剤治療で苦しむ人達を多く見てきたトラウマがあったのです。しかし、実際に自分がそれを受けることになり、予定の2クールを終えた今、それほど恐れることはなかったというのが感想です。

まず第一に、副作用の一つである食欲不振が、想像ほどひどいものではありませんでした。確かにものを食べられなくなる症状はありましたが、実際に嘔吐するまでには至らなかったし、なにもかも受け付けない期間はほんのわずかしかありませんでした。優れた制吐剤が開発され、吐き気のコントロールは、この十年の間にたいへん進歩したそうですが、その恩恵にうまくあずかることができました。

第二に、確実にあるだろうと思われていた脱毛がぼくにはあらわれませんでした。2クール終わった今も頭髪はありますし、抜け毛が極端に増えた兆候はありません。たかだか脱毛とは申せ、外見の変化は想像以上に精神的ダメージを食らうものです。以前にインターフェロンの副作用で髪の毛が抜けたときは、まだ若かったこともあって人生が終わったかのような気持ちになりました。今回はある程度覚悟していたのですが、それがなかったので気持ちの動揺がなく毎日を過ごせたのは間違いありません。

しかし、骨髄抑制による貧血の進行は意外とあなどれませんでした。もともと長年にわたって白血病治療を行なってきたせいか、骨髄抑制が進んでおり、特に赤血球は平時でも基準値以下だったのですが、そこに抗がん剤が入ることで、全血にわたり骨髄抑制が進行したのです。白血球が2千を切ったり、血小板が5万を切るなど、要注意水準まで下降したこともありましたが、それらは時間の経過とともに回復し、心配な期間は短くて済みました。しかし、赤血球の減少だけは今もなお持続し、基準値下限の6割ほどと、かなり低い水準まで落ち込んだままです。その結果、少し動いただけで息切れするなど身体の倦怠感が抜けず、今後の日常生活の懸念材料になっています。

この貧血については、もう少し様子を見て血液内科の先生とも相談しながら対処を考えることになろうと思いますが、回復には時間がかかるかもしれません。しばらくは、家に帰っても休み休み生活をすることになりそうです。

副作用という点では、以上のように骨髄抑制を除いては想像よりも軽微であったと言えます。ただ今回の抗がん剤治療は、転移した腫瘍があるわけでもなく、あくまで予防措置としての治療だったので、効果測定ということがありませんでした。ある意味では腫瘍に効果があったかどうか心配する必要もなく、副作用だけに注意しておけばよいというという安楽さがあったのですが、効いているのかどうなのかわからないというのも、何かもやもやしたものが心に残る毎日でもありました。

考えようによっては、ただ身体をいじめて、いたずらに社会復帰を遅くしてしまったということもできます。また、前々から感じたように病院にいることが日常になりかけて、社会復帰を恐れる気持ちにつながったようにも思います。これが例えば、すでに転移があって化学療法に賭ける日々ならば、かなり緊張感のある毎日となったはずですが、そのようなことがないだけに、状況に甘えた日々ではなかったかと反省しています。一方で、このモラトリアムの期間は、人生を見つめなおすいい機会でもありました。普段これといった信仰をもたないぼくにとっては、病や事故など非日常世界に放り込まれて、ようやく自分の生き方を見つめなおすことができたのです。そこでぼくは何かしら自分の生き方について考え得ることができたように思います。そして、これから残された人生のうちに、それを実践していきたいと思います。

明日は、いよいよ退院をします。いずれまた振り返るときもあろうけれど、明日からは前を向いて生きなければなりません。

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