第2クール第9日 ニャン太

病院に向かうニャン太
今日は入院日記ではなく、我が家の猫が手術を受けた話を書こうと思います。

我が家にはニャン太という老猫がおります。齢13ですから人間の歳にして70歳くらいでしょうか。大きな病気をすることもなく安楽な日を送っておりましたが、しかし齢も十数年となると、生来の活発さがなくなり、ひなが一日寝て過ごすことも多くなっておりました。

先日、ぼくが三週間の入院を終えて自宅に帰ると、ニャン太は右の目からは涙を流し、クシャミをしているではありませんか。風邪でも引いたのかと聞くと、嫁さんははじめて知ったとばかり驚いておりました。数日は様子を見たけれども、なかなかよくならないので、ともかく動物病院に連れて行って診断を仰ぐとこれがなかなか重症でした。

先生の曰く「歯周病にかかっており、その菌が歯頸を貫いて鼻腔まで達し、このようなクシャミをして、涙が流れている」と。また血液検査の結果、老齢によって腎機能が低下しており、通常のエサではなく腎臓病の治療食に切り替えなければならないとのことでした。体重も随分減っており「エサを食べていましたか」と問われても、ぼくはもとより嫁さんも答えられませんでした。猫のことにかまっていられないほど、彼女も生活にくたびれていたのです。

治療するには悪くなった歯を抜いて、菌の鼻腔への浸潤を防ぐことが必要で、その手術日は24日と定められました。また治療食への転換も同時に進めなければなりませんでした。ニャン太は、歯の痛みに加えて突然のエサの切り替えに戸惑い、数日はほとんどエサを食べず心配をしましたが、だんだん痛み止めの注射が効いて治療食にも慣れたか、エサの量が増えてきて安心をしました。

やがてまたぼくは病院に住まうことになり、果たして昨日嫁さんは彼を動物病院に連れていき、一日入院させて今日連れて帰りました。手術はなんとか終わり、術前は絶食だったせいもあって、エサをがっつくように食べていると報告を受け、安心しました。一方、その手術代については愕然としました。が、それも仕方ないかと請求通り払わせました。

ニャン太は2001年秋、まだ生後数ヶ月の時に店先の道路にぽつねんと立っていたのを保護し、以来里親を探すこと数週間を虚しくすごすうち、たいていの猫飼いの例にもれず、情が移って我が家の飼い猫となりました。

子どものいない夫婦にとっては、我が子同様、動物病院での戒めを守り、屋外に出さず、人の食事を与えず、プレミアムフードをあてがい大事に育てました。後年、諦めていた人間の息子ができて、親の愛情がそちらに自然と移ってしまったのですが、子どもに危害を加えることもなく、かえって子どもに虐められてもするりと抜けだして距離をおくなど、温厚にして聡い猫でありました。

いたずらもよくし、我が家の壁は彼のツメによってぼろぼろですが、お腹が空くと騒ぐこともなく皿の前にじっと座ってエサをくれるのを待ちつづけ、ぼくがあぐらをかくと必ずその間に納まって喉をならし、床に横になればしめたとばかり腹の上に乗って寝息を立て、お風呂に入ろうとすると必ずついてきて浴槽のお湯を飲むのが大好きな、愛すべき猫です。

なんといっても彼はやはり家族の一員、いってみれば我が家の長子でもありますから、まだしばらくは安楽な余生を過ごしてもらいたいのです。奇しくも、主人であるぼくがこうして病に伏せ、また彼も病にかかったのは、主人の痛みを少なからず彼が引き受けてくれたのかという気持ちもしないでもありません。だとしたら、多少の手術代を云々言うも詮無いかなと思うのです。

この手術の成功を吉兆とし、彼が無事家に帰ったように、ぼくもまた治療が順調に進み、家に帰られるといいなと思います。

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